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手紙/東野圭吾(ネタバレ)

「涙のロングセラー、待望の文庫化」「感動を呼んだ不朽の名作」

という売り文句が、これほど似合わない物語はありませんね……。

これは、現実なのだと思います。社会は差別と偏見に満ちている。

いじめの無い学校・職場、差別の無い会社・環境そんなものは

そもそもあり得ない。理想と現実は違っていて、誰もがホントは

それを分かっているから、目立たぬよう、さしさわり無いよう

日々生きている。良い、悪いじゃなくて、それが現実だということ。


手紙 (文春文庫)
東野 圭吾
税込価格 : \620 (本体 : \590)
出版 : 文芸春秋
サイズ : 文庫 / 428p
ISBN : 4-16-711011-3
発行年月 : 2006.10
@niftyBOOKS~アット・ニフティブックス


幸運なのか、当たり前なのか、身近なところに事件が無いので

ちょっと遠い話になりますが、ライブドア事件のことを考えると

球団取得手前まで行った大企業が、社長は逮捕され

本社はついにヒルズから撤退と、衰退の一途を辿っています。

そんな中、前社長・堀江さんの裁判の様子が報道され

「遠い存在・事件」「もともと関わりない」と思いながらも

私は何故か、彼の強気な言動に心が落ち着かない……。

もし無罪になって、また彼が何か大きなことをやり始めたら

どうしよう。それが私の生活や人生に関わってくるものだったら

……例えば、そう、球団じゃないけど、私が身を置く会社の

買収とかはじめたらどうしよう……と、怖くなる。裁判で無罪が

確定したのなら、犯罪者ではないのに、関わるのが怖い。

なるべくなら、一生近づきたくないと思うのが、現実社会。

「そんなのは不当だ!」と言われたら、「もし自分が、その立場に

置かれた時、どう思うか想像してみろっ!」と言いたい……。

法律にふれるようなことをするつもりは無いけれど、できる限り

こちらから積極的に関わることは避けたいと思うはずです。

というか、堀江さんは、この社会を恨んでいないのだろうか。

もし恨んでいたら、彼ほどの人がもし、社会に報復を考えたら

私は、その単なる憶測が怖い。だから、関わりたくない……。


由実子は、過去に逃げ回って疲れ果てた経験があって

たいていの人より、たぶん気質の骨の作りが頑丈だった。

だから、直貴に迷惑がられようと、嫌われようと

お兄さんの手紙を受け取って、返事まで書いていた……。

お兄さんを救おうと思ったわけじゃないと思う。

助けようと思ったのは、やはり直貴のことなのだと思う。

結局は、愛の深さなのでしょうか。救いたかったのは直貴。


お兄さんは、弟の為とは言え、自分が犯してしまった罪を

背負い、遺族に必死に謝りたいと書き続ける。自分が

どれだけ悔いているか、書き続ける。それが遺族に

どんな思いを抱かせるか考えもせず、自分のことだけを

書き続ける。何一つ、自分の中では悔い改めていなかった

ことに、ようやく気が付いたのは、服役して何年もたってから。

弟からの絶縁の手紙を読んで、ようやく。刑務所の季節の

ことや、労働のことを書き連ねたり、叔父気取りで姪の写真を

希望したりするだけで、どんな不快だったかを、思い知る。

「申し訳なかった」と、伝えることさえも、拒まれていたのだと。


直貴は、兄の犯行動機が、そもそも自分の大学入学の為の

費用だったのだと、分かっていて、だから最初から兄の存在を

苦しく思いつつも、自分の中から消せなかった。けれど、失う

ことばかりで、得られるものがなくて、もう、兄はいないものだと

することにしたのに、恩師や由実子によって、繋がってしまう。

由実子と結婚して、子供に恵まれて、心の支えを得たことで

「逃げない、向き合う姿勢」を貫いていたのだけど、娘が疎外

されてる現実を目の当たりにする。また運悪く遭遇してしまった

ひったくりにより、娘が顔に傷を負う。若い強盗の両親が

謝りに来て、ひたすた頭を下げる姿を当惑しながら見て

直貴はようやく、兄の殺害したおばあさんの遺族のことを

思い出す。もっと早く行くべきだったのだ、自分の為にもと。

そして、その感情さえも、遺族は見越していた。おばあさんが

殺害された家に住み続けているという事実だけで、直貴は

おそらく身体が硬直したことでしょう。遺族もお兄さんからの

たくさんの手紙を受け取り、みんながたくさん背負っていた。

兄と縁を切ろうとも、それは決して無くならない、軽くならない。


どうやっても、誰も救われない物語。これを映画化……。

よほど、根性がないと作れませんね。っていうか、誰かを救う

映画に仕上がっていたら、なんか、嫌だなぁ。どうにもならない

現実の物語。誰も、誰かを救えない。誰も、自分を救えない。

見る分だけ、経験する分だけ、過去の重さを思い知る……。

それでも、生きていかなければいけない。生きていくことが修行。

なんか、ここまでの心境に至ると、尼になる人の心が少しだけ

分かる気がしますね。楽になる為なんかじゃない、もっともっと

苦行を知らなければならないのだと、まだ足りないから苦しいのだと。

これは、現在の日本の現実の話。「名作」とか「ロングセラー」とか

架空の物語ではないんです。解説にもありましたが、心の鏡を

ちりばめられた物語。「千と千尋~」のカオナシと同じです。

あなたは「手紙」の中で何処にいましたか?と問いかけている。

「善と悪」でも「正と誤」でもない、考えて下さいというメッセージ。

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