椿山課長の七日間(ネタバレ2)
ネタバレの続き
「青の炎」を読んでる時は、1つの犯行が終わっても、半分の厚さが
残っていることが不気味でしたが、「椿山課長~」は、残りページが
あまりにも少なくて、これで全部片づくのかと、不安でした。
人の人生、文庫一冊で片づくはずがないんです。もちろん溢れる。
溢れた部分を、こうやって考えるのも読書の内なのだと思います。
いえ、もちろん、浅田作品はしっかり、まとまって、片づいています。
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椿山課長の七日間/浅田 次郎 |
一番書きたかったのは、知子姉さんのことです。・・姉さん、姉御
っていうか、女曹長って感じかしらん。椿山さんも復唱していたけど
彼女のセリフは素晴らしかった。「世の中100ある恋のうち、99は
自分のための恋。残る1つが本当の恋。相手のことを思う恋。
その為なら、自分の心など壊れてもいい想い。それが恋なのだ」と。
だから、彼女に何も悔いはない。悔いがあるとすれば、椿山さんに
「死にきれない」と思って、仮の身体を借りて現世に舞い戻ってくる
くらいの後悔を抱かせたまま、死なせてしまったことだと思います。
「献杯」という、彼女の告白で綴られる章は、それだけで胸が
締め付けられるほど熱くて、苦しくて、でも彼女に悔いはないのだと
いう確かな意志が感じられるのも事実で、だから椿や読み手が
悲しんだり同情する必要もないのだと、はっきりと指し示してくれる
知子のその気質が、ものすごく暖かくて、強くて、こういう人が
世の中の「お母さん」なんだろうなぁと思いました。言い方は悪い
かもしれないけど、一緒に暮らしてなくても、入籍してなくても
椿山さんが死んだことで未亡人になったのは、妻じゃなくて知子の
方なのかもしれないと感じました。彼女が自分で言うように
本当の恋が100に1つだとしたら、もう彼女には本当の恋はない。
裏を返すと、もしかしたら、奥さんにとって、本当の恋は嶋田さん
だったのかもしれない、とも思うのです。遠くない未来、奥さんと
嶋田さんは再婚するでしょう。それは、社会的に色々と波風を
受ける入籍であり、陽ちゃんに受け入れられるか心配な面もあり
「元鞘おさまって、万々歳」の図ではないんです。陽ちゃんのこと
なら、おじいちゃんにしっかり教育を受けているので心配は無い
のだけど、陽ちゃん自身が心配ないのと、本当の両親が心配
している事実は、違うものなので、本当に3人の心が咬み合うのは
難しい部分だと思います。そして、色々思うことはあったにしろ
愛していた妻と、大事な息子を守ってくれる人が7日間のうちに
みつけられたのなら、椿山さんだって、例え今は納得できなくても
きっと良かったのだと思います。椿山さんは、SACでお父さんにも
逢えたし、本当にまっ白になって天に昇っていけることでしょう。
でも、知子さんは違う。せっかく「スウィートホーム」と思って買った
マンションを手放そうと思ってた矢先に「未亡人」になってしまった。
幸せな図をずっと見せつけていてくれたなら、それで良かったのに。
奥さんが元鞘に収まって、陽ちゃんと3人で幸せになる姿を
見ることになる。彼女ほど人格の出来た人なら「それもありよね」と
受け入れそうな気もするんだけど、100ある恋のうち、本物の
1つの恋だったのなら・・・。いや、だからこそ、椿山さんが愛した
家族も、愛せるのが、時計宝飾課佐伯知子係長なのでしょうね。
浅田作品、私にまた数ランク上の女の姿を教えてくれました!
ありがとう!・・・そうそう、TVで「地下鉄(メトロ)に乗って」の映画
予告が流れていますが、タイムスリップ物は読んだ記憶がありません。
読んだと思ったのは別の作品だったようです。レッツゴー古本屋!
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