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鉄道員(ぽっぽや)

この本との出会いは、私の革命でした。今思うと、当時の私が

どうしてこの本に手を伸ばしたのか、その理由も思い出せません。

それくらい私には結びつかない本でした。24歳だったと思います。

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)
浅田 次郎
税込価格 : \500 (本体 : \476)
ISBN : 4-08-747171-3
発行年月 : 2000.3

@niftyBOOKS~アット・ニフティブックス

当時の私は「目指せIT系キャリア・ウーマン!」街道にいました。

頭のてっぺんから足のつま先まで、10~20万は当たり前の装いで

出社し、コーヒー片手にWeb管理のお仕事をしておりました。

お給料が良い仕事というのは、己の時間や良心をガツガツと

削って突き進む、身も心も痛い職です。表面上の華麗さとは裏腹に

内心はボロボロで、家に帰るとストレスで眠れないような日々でした。

週に1度の日帰り出張、月に一度のお泊まり出張。新幹線も

朝や夜は混みがちで自由席だと座り損ねることも良くあります。

その日もシートが空いて無くて、その時はたまたま近場だったし

デッキに立って本でも読もうという覚悟が最初からあったんでしょうね。

「鉄道員」がカバンに入っておりました。読んだ方ならお分かりですが

これは短編集で、表題の「鉄道員」を入れて8本くらい入ってます。

あの大作映画の原作は、実は30分ほどで読めてしまう超短編なのです。

私は読書好きで、読書歴もそろそろ20年になるはずの活字中毒ですが

読むのは未だに遅いです。とっても。なので、この短編も45分かかりました。

ちょうど、○岡→△台のノンストップ新幹線が45分くらい。この本が

短編集だということも知らなかったので、選んで買ったわけでもありません。

というか、この本をどこで買ったのか確実には覚えていないのです。

今では考えられないことに、1回の買い物が10万を越えてた頃なので・・・。

真っ白な北海道の広大な情景の中に、糸のようにレールが走っていて

黒いSLが煙を吐きながら迫ってくる。聞こえるのは蒸気機関車の音だけ。

その他は、あまりに冷え切った耳のせいか、本当に音がない状態なのか

キーンと張りつめたような、まさに音まで凍るように冷たい世界。

まるで白黒映画のように、自然のモノクロの美しい世界。

小説の冒頭の描写で、そこまで五感を奪われたのは初めてでした。

だからこそ、中に出てくる人たちの心から「暖かい」という温度を

感じることができたのかもしれません。それを感じた瞬間、革命でした。

他人の心の温度を感じること。それも紙という二次元のフィクションから。

自分の心の冷たさ、堅さ、ひねくれ度合い。全てを突きつけられました。

「この人間(私)は、人ではない」人を傷つけて働くこと、家族に心配を

かけて生き続けることに、何も感じなくなっていた自分に気づきました。

気づいたからと言って、すぐ変われたかと言ったらそうではありません。

必死に否定しようとして、更にもがいてドンドン苦しくなっていったのです。

仕事のストレスもより鮮明に感じるようになってしまい、他人の痛みも

少しずつ見えるようになってしまった。今は、それはいいことなのだと

思えるけれど、当時の私は「自分の劣悪さ」を認められず苦しみました。

過労死、ノイローゼ、自殺。そんな言葉を昨今、よく耳にしますが

頭では「会社に行って、あれとこれとそれと・・・」と考えてるのに

気が付けば、道路の真ん中に突っ立っていて、前と後ろ双方から

クラクションを鳴らされたり、ホームに入ってくる電車に合わせて

身体がゆらりと動いたり・・・、身体が死に向かう状態になっていました。

そして、このノイローゼ状態から脱出するきっかけになったのも

同じく、浅田次郎さんの「壬生義士伝」でした。この話はまた今度。

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鉄道員(ぽっぽや) 浅田 次郎 / 集英社 浅田先生の講演を聴く前に著書を読むキャンペーン第2弾。 前回は「姫椿」、なかでも「獬」には泣かされましたが 今回も見事に泣かされました。 近しいひとが生き返るお話は、好きではありません。幽霊モノしかり。映画でいえば「ゴースト」、 最近なら「黄泉がえり」「いま、会いにゆきます」あたり。「死んでも生き返る」となればなんでも アリ。「ゾンビ」です。桜は散るから美しい。「死んでたけどやっぱ死ぬの延期します♪」では 緊張感がありません。 ... [続きを読む]

受信: 2005年11月21日 (月) 16時20分

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